御曹司様の求愛から逃れられません!

まさか名前を呼ばれるとは思っていなくて上手く反応できなかったが、彼はかまわずランウェイを外れ、そんな私のすぐ前まで揚々と歩いてくる。

「やっぱり園川だよな!久しぶり!元気だったか?」

彼は相変わらず周囲の視線などお構い無しで、ハイタッチでもするかの勢いで話しかけてきた。
唯一の救いは彼が私の呼び名を“園川”に訂正したことだけで、帰国したてのスーパー本部長がただの一社員に構っている図に変わりはない。

「は、はい、おかげさまで!お久しぶりです本部長!オーストラリアはどうでした?」

私は声を裏返しながら返答した。貼り付けた満面の笑みに、彼も同じ顔をする。

「あっちは暑くて暑くて。本社に園川がいるって聞いたから逃げ帰ってきたんだよ」

「う、嘘つかないで下さいよ、はは!」

「嘘じゃないって、はは!」

気持ちいいリズムで話す志岐本部長と私を、ギャラリーは交互に見つめている。いい加減誰か邪魔をしてくれ、と心の中で思っていた。

「お二人は知り合いですか?」

そこで営業部長が、いい具合に割って入る。
志岐本部長はすぐに答えた。

「ええ。大学の後輩です」

麦畑に風が吹いたように周囲がざわめき始める。
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