御曹司様の求愛から逃れられません!
「そうですね……」

内容には同感だったので私も「大学のときも」と話をしようかと思ったが、急に恥ずかしくなった。私は過去の絢人さんしか知らないけど、玲奈さんは空白期間の彼を知っているのだ。
勝ち負けみたいに考えるなんて、なんて情けないの。

「……玲奈さんは、本当に絢人さんとの婚約を破談にしていいんですか?」

もう直球で聞くことにした。これ以上恥を重ねても仕方ない。
顔を上げると、玲奈さんは私の顔を見てクスクス笑った。

「そう言ってるじゃない。そんな不安そうにしないでよ」

「す、すみません……!」

「……絢人はね、彼のお父様の勧めで、今までも何人かの女性と縁談を組んでお付き合いしてきたのよ。でも、誰とでも上手くやれる彼だけど、どうも縁談っていうものは下手みたいで。ほら、彼って愛想は良いけど、愛情があるかと言ったらそうではないから。そこを求めるご令嬢とは、合わなかったの」

私はふんふん、と頷いて聞いた。
まったく同感だ。それが絢人さん、という感じ。だから私もいきなり自分に向けられた彼の愛情に戸惑っている部分もある。

「でも私とは長く続いてきたから、お父様たちはすっかりその気になっているの。……本当は、お互いに愛情がないって分かっているから、ふたりとも割りきっていただけなのに」

分からないのはそこだ。どうしてふたりは割りきってまで一緒にいたの?それに、それを今になって破談にする理由は何?
続きが気になって、私はスプーンを置き、食い入るように彼女の顔を見た。
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