御曹司様の求愛から逃れられません!
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あの後、日野さんやら何とかさんやらに詰め寄られて、もう大変だった。
大学時代だけで今はもう付き合いのないことをどうにか伝えたけれど、なんとかお近づきになりたいとか、飲み会を企画してくれ、だとか。皆勝手なことばかり言ってくる。

今の彼は分からないけれど、昔の彼は「オッケー、じゃあ皆で飲むか!」と嫌味なく人の好意に応える強者だった。
でも私は今は自分の仕事で手一杯だし、その橋渡しになるのはごめんだ。

夕方七時に会社から帰宅し、駅ひとつ隣のマンションへ戻ると、スーツのままソファに寝転んで、今日のことを思い出していた。

“真夏?”
あの声がまだ頭の中でリフレインしている。

「……絢人さん、か」

無意識に呟いて、携帯電話を見た。会話型のSNSアプリを開くと、一週間前に彼から突然来たメッセージが表示される。
ごろんと寝返りを打って、何度もその文面を見ては、クッションに顔を押し付けた。

彼が卒業してから、もう何年も会わなかったのに、どうして今さら……。

そのとき、手元の携帯電話が振動した。ブルッとした刺激で手から滑り落ち、端末はソファーの足下へと転がっていく。
クッションから顔を上げて、手を伸ばしてそれを拾い上げると、開いていた『志岐絢人』との会話画面に、新たなメッセージが追加されていた。

【お疲れ!もう帰ったか?今日空いてるなら飲みに行くぞ】

私はもう一度、手元が狂って携帯電話を落とした。
飲みに?今から?いやちょっと心の準備ができてないんだけど……。
もう、なんでいつもこう、嵐のような人なの。
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