御曹司様の求愛から逃れられません!
猫をあやすようにお腹を触られ、くすぐったいのにそれっぽく反応してしまう。
私こそ、体が絢人さんを覚えているのだ。

ダメって言ったって、離してくれないくせに。

「キスだけ……」

「キスだけならいい?」

「…………キスだけ、ですよ。約束ですから」

「分かった、ありがとう。約束する。口開けて」

“口開けて”という指示には恥ずかしくて従えなかった。できればそっちから迫って開けてほしい。
どうしたらいいか分からずモゴモゴと唇を舐めていると、絢人さんは私の頭の後ろでフードをくしゃっと潰し、グッと力を入れて引き寄せてきた。

「……ん……」

数週間ぶりのキスに、くらりと視界がぼやけていく。やっぱり気持ちいい。

お互いにラフな格好だからか、時間が経つと硬くならずにリラックスできた。絢人さんの逞しい体がスーツのときよりもしっかりと感じられ、押し倒されないよう、私も少しずつ彼に体重を預けていく。

これからまたしばらくキスできなくなるのかと思うと、お互いに止めることができなかった。

「絢人さん……眼鏡……」

私は息継ぎの隙に、指先まで隠れたパーカーの手で絢人さんの耳もとにそっと触れると、彼の眼鏡をずらした。
眼鏡はソファの上に落ちて、カシャンと床に転がっていく。

彼は呆然とした後、燃え上がった。
目付きを変えて私を再度抱き寄せながら、ピチャピチャと音の鳴るキスに切り替える。
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