御曹司様の求愛から逃れられません!
貪られ尽くし、まったく体に力が入らなくなると、一旦キスの嵐は止んだ。
絢人さんの息も上がっている。私はへにゃりと彼の腕の中に沈み込んだ。

「絢人さんのバカ……」

彼の肩に頬をつけ、最近の私の口癖が自然と口から出てきた。
絢人さんは私を持ち上げ、向かい合わせて膝に乗せると、「バカでいいよ」と言いながら両手を握ってくる。

少し高い位置から彼を見下げることになり、何故この人が私のことを好きなんだろうとしみじみと考えた。

絢人さんは感情表現が豊かで、私に惜しみ無く愛の言葉をくれる。それをかわしつづけるなんて、これ以上ない贅沢だ。
こんなことをしていれば、いつか愛想を尽かされるだろう。そのときに困るのは自分なのに、私はいつまでこの状態のままでいるつもり?

「……絢人さん」

「うん?」

絢人さんは私を膝に乗せているだけで満足そうにしていた。キスだけ、とは約束したけど、本当に守ってもらえるとは思わなかった。

「偉いですね」

頭の中で考えたことの続きを呟いたので伝わらないかと思ったが、彼には伝わった。
絢人さんには珍しい、少し切ない表情になる。

「嫌われたくないからな、お前に。……これ以上」

嫌いじゃない!
声を大にして言いたかった。好きです。大好き。世界一格好いい。

「嫌いだったらキスしません」

「……真夏、そんなこと言ってたら俺に襲われるぞ」

私は慌てて、彼の膝の上から逃げた。
本当はこれ以上の刺激を求めているけど、それをしたらダメだと思い直した。

絢人さんもきっとそう。なし崩しだけでそこまではしたくないのだ。逃げた私を追いかけない。
……私のことをちゃんと好きな証拠だ。
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