優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。
玉子焼きを目の前のお皿に置かれながら、うんざりする言葉に言葉が詰まる。
ただでさえ受験というワードだけで胸がキリキリ痛むのに、更に偏差値が高い方に行けというのは、いかがなものなのだろう。
この切られていない卵焼きに文句は言わないので、これ以上注文をしないでほしい。
卵焼きを箸で切りながら、ふと頭をよぎった。
「お母さん、隣の市の高校って、あっちの工場ができた方?」
「いやあね、そんな都会の方じゃないわよ。逆よ、逆」
フライパンを洗っていたお母さんが、こちらを振り向かずに笑い飛ばす。
「向こうは、少し遠いじゃない。電車で一時間半はかかっちゃうわ。お母さんが言ってるのは、反対側の高校よ」
一時間半、か。
大人でも一時間は遠いと感じるんだ。
ふわふわでふかふかのはずの卵焼きの味がしなくて首を傾げながらも、私はそこで思考を停止した。
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