優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。
でも本棚の本はほぼ読まれることはなく埃をかぶっている。あまり本を借りる人はおらず、いても返却カウンター近くに並べられている新刊を借りるぐらいだ。
部活が強制のこの学校で、毎日本を借りるという奇特な人はそうそういないのかも。
そんな図書室の一番奥のカーテンが閉まった窓の下、並べられた長テーブルを占領している人が見えた。
テーブルにカバンや本、筆箱、ノートを出し、俯せになって倒れている。
間違いない。彼は眠っている。
窓枠の影が彼の背中に描かれている。
小さく聞えてくる寝息に思わず顔がほころぶ。
ノートを覗くと、彼の字は右に少し上がっていて、線から時折はみ出ていて、彼らしい元気な文字だった。
シャーペンはあの工場の名前が彫られている。会社からの試供品かな。
「ゆ、優大くん」
恐る恐る名前を呼ぶけど、返事はやはりない。
ゆすっても声をかけても、起きなかった。
もっと大きく声を出したり、授業中に先生が丸めた教科書で頭を叩くぐらいの勢いがあれば起きるのかもしれないけど、そこまで起こしたくなくて、一つ席を空けて座って眺めてみた。男の人なのに意外と睫毛が長いことは、この前知った。
開いた教科書の、人物に落書きだらけなのは薄々想像できていた。
消しゴムが、よく消えなさそうなウサギの形なのは、きっと誰かに貰ったんだろうな。
寝顔からは想像できないほど、苦しんでいることも私は知ってる。
知ってしまっている。
だから起こしたくなくて、その寝顔ばかり見ていた。