優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。
大人にはきっと、私のこの気持ちは理解できないんだろう。
優大くんは相変わらずで『ゴッホが咳をした。ゴッホゴホ』とかふざけて笑わせようとしてくる。
それなのに、私は笑えなくて、うつむく。
時間が止まれば、いいのに。
家に帰る距離が、いつもより早く感じて、嫌だった。
「蕾、今何考えてる?」
「……家までの距離がね、シルクロードになればいいなって思ってる」
「シルクロード?」
首を傾げた優大くんは、きっと歴史の勉強はまだ手付かずに違いない。
「永遠に家に帰らなければいいのになって思ったの」
「まじで! 俺も。俺も帰りたくねえなって思ったんだよ。奇遇じゃん」
明日でお別れとは思えないぐらい軽い発言に驚きつつも、彼は私の手を引っ張ってバス停の時刻表を指さした。
「行こう」
「行こうってどこに?」
「プチ家出。さっきショップのおばさんに行き方を教えてもらったんだよな。ひまわり畑」
「い、今から? だってもう五時過ぎてるよ!