優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。
「食べ終わったら、図書室行ってまじで勉強して、んで、蛍見に行こう」
「蛍!? この町に蛍がいるの?」
「うん。お祭りやってる土手のちょっと先に看板あるよ。『蛍が来るので侵入禁止』ってな。流石にお祭り行ったら、俺浮かれそうだから蛍にしょう」
私もぶんぶん頷く。
自分の住んでる街なのに、蛍がいるなんて知らなかった。
急いでお肉を食べようとしたら、びっくりするぐらいの塊で、優大くんにはさみで小さく切ってもらいながら完食した。
*
私の知らなかった世界。私の視野は狭くて、大人の言われたとおりの生活だけだったからきっと見えていなかった。
優大くんは、色んな世界を知っていて、私がうつ向いていたことも知っている。
二人で驚かせないように息を殺して静かに向かったその場所。
いつも車で通りぬける橋の下で、通学路でもあるので、人の行き来が多い場所。
そんな場所に蛍がいるなんて知らなくて、信じられなかったけど、根気強く30分ほど見張っていたら、蛍は現れた。