優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。
「ちょっと待ってください。さっきと言ってること違うし、それに怖い絵なんて描いたことないから無理ですっ」
陣之内くんの説明が下手なのもあるけれど、受験勉強もあるし窓ガラスに映るプールも描きたい。それに怖い話は苦手だ。
「ゆ、百合ちゃん、百合ちゃ」
「私に振らないでください。私、コンクールの絵があるし」
「ねー、頼むよ。こう、ぱぱぱっと、あ、デジタル描ける? パソコンでペン使って描くやつ」
「無理ですってば。か、帰ります」
さっさと帰ればよかった。無理なのに強引に押し切ろうとしてくるし、何を言ってるのか半分も理解できない。
「分かった。デジタルは無理だよな。ペン買うの金かかるみたいだし。あのさ、キャンパスにこう、キャー怖いって感じの絵を描いてよ」
「……無理です。他を当たってください」
帰ろうと鞄を持って立ち上がると、先回りしてドアの前に憚ってくる。熊みたいな大きな陣之内くんに通せんぼされたら、帰れるわけない。