優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。
教室に行くのが怖い。でも一番情けないのはこんなに弱い自分だ。本当に嫌だ。消えてしまいたい。
「……おーい、ぶつかるぞ」
「へ!?」
下ばかり見ていたので、慌てて上を向いた。
「はっや」
「……え」
「下ばっか見てんなよ。ぶつかるぞ」
「……陣之内くん」
廊下の向かいから歩いて来ていた彼の上靴を見て、背中に冷や汗が流れた。
どうしよう。なんでこんなに早く登校してるの。
「もしかして蕾も、教室で創作活動? あれ、やべーよな」
教室のドアをあけてくれた陣之内くんが、窓を指さす。
窓には、朝の陽ざしにきらめくプールの水面が浮かび上がって揺れていた。
まるで教室が水の中にいるような、たゆたう波の中を光が輝いている。
「これ、これをデジカメに収めようと思ってたの」
「ふうん。超わかる。誰もいない教室の風景って夜に見返したくなるよなー」
「う、うん、そ――」
そうだね、と言おうと彼を見上げて固まった。目の下から頬にかけて青くなった痣が浮かんでいる。唇の端も切れたのか瘡蓋になっている。
「そ、それ、怪我? ど、どうしたの? 大丈夫?」