優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。


「え、ああ。これ、ね。めっちゃ喧嘩した。負けたんだけど、初めて2発、カウンターが決まったってーの」
 子供っぽく笑う彼は、何故か照れ臭そうだった。喧嘩なんてするんだ。負けたのに、そんな顔をするのも不思議。

「痛いのになんで笑うの?」

 言った瞬間、口を抑えても遅い。なぜ私はそんなことを聞いてしまったんだろう。
陣之内くんは、目を数回ぱちぱちしたあと、くしゃくしゃの顔で笑いだした。

「だって次は勝てそうだったし。痛くても、譲れないもんってあるじゃん?」
「そ、うなの」

言っている意味が半分も理解できないけど、彼の中ではもう痛みについてわだかまりはないようだ。

そのまま、教室に入った彼は驚いたことに廊下側の私の席に平然と座った。
自分の窓際の一番後ろに座ればいいのに。

「あの、私が座る場所」
「だってここが一番、窓が綺麗に見えるじゃん。蕾は隣においで」

 そういえば、いつのまに名前を呼び捨てしだしたんだ。
 昨日、美術室に来たときは名字だったよね。
 とはいえ、彼に言い返すことも逆らうこともできず隣の席の椅子を引いて座った。
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