優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。


「はは……」
「でもまあ顔が格好いいから許せるよね」
 紗矢は頷きながら一人納得して歩いていく。


顔がいいと許されるのか、とやや疑問だったけど自分から彼の話題を出したくなくて黙っておく。


 彼はどんな絵を描くのだろうか。ホラーチックな絵って画力がないとギャグ絵にしか見えないけど、彼はそれを克服できるのかな。


渡り廊下を歩いていると、紗矢が遠くに見える工場の煙突の煙を見つめて立ち止まった。

 うちの市にある車の部品を作る工場だ。数種類の部品をあそこで作り、毎日トラックで全国に輸送されている。大手企業の下請けだったけど、この市ではそこで働いている人の方が収入がいいとか一時期囁かれてたっけ。

よく考えたら、窓からは常にあの工場の煙突が見えている気がする。
子ども心がつく頃にはとっくに。


「紗矢ちゃん、早く行こうよ」
「なんていうんだっけ、この前授業で習ったんだけど。ほら、諸行無常のなんちゃらなんちゃら」
「平家物語の冒頭?」
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