優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。


 紗矢が授業をちゃんと聞いていたのに驚いたけど、紗矢は部活のせいで授業中寝ていることが多いが真面目に受ければ要領もいいし勉強ができるのは知っている。


「あーそれそれ。それががさ、あの工場にぴったりだね。うちの親が言ってたんだよ。あそこの機械とか古くなっちゃって、質は良いけど隣の市にできた第二製鉄所の方が今はすごいって」

 風に靡く髪を押さえながら、なぜか少し苦しそうな痛ましい顔をする。いつもの豪快な表情ではなくて少しだけ焦ってしまう。

「紗矢ちゃん?」
「隣の市の製鉄所ね、管理できない財産価値のない山を買い取ってそこで製鉄所作ったらしいの。だからうちの市のより何倍も大きくて――機械も新しくて、だからこっち縮小して向こうに移る人が多いって」
「よく知ってるね」

「従兄のお兄ちゃんが向こうに配属されたから。こっちより給料いいし仕方ないとは言ってたよ」


 ごめんね、行こうか、と紗矢が歩き出す。
 紗矢が歩き出しても工場が視界から消えることはなかった。
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