優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。
「……優大のさ」
「うん」
「お父さんも確かあの製鉄所で働いてるはずなんだよね。重役の方が早く移動してるみたいなのになあ」
紗矢が首を傾げつつも、『あっ』と美術室に飛び込んでいく。くるくると表情が変わるのと同じぐらい彼女の話題も興味もくるくる変わっている。
「これ、去年、蕾が入選した絵じゃん。いつまで飾っとくの。なんで本人に返さないのー?」
美術室の後ろに、歴代のコンクールで入選したり受賞した作品が置かれたり展示しているのだけど、私の作品もこっそり混ざっていたりする。
私が応募したのは市の『日常の中の美しさ』とかなんとかいう、地域をもっと知ろう、もっと親しみをもとうという企画。
私が描いたのは、さっき話題にした工場の煙だった。煙突からキャンドルのように夕日がかかって町をともしているようなそんな情景。
「確か卒業するときには言えば返してもらえると思うよ。ずっと飾ってる人もいるみたい。家で眠らせておくよりはって」
「確かに家にあっても飾らないか」
納得したのかそれ以上は追及してこなかった。本音を言えば人に見られるのは恥ずかしい。何度か家に持って帰りたいと頼んだのだけど、在学中ぐらいは飾らせてほしいと言われ先生にそれ以上は強く言えないのでなあなあになってしまっていた。