優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。


「……何をしてるの?」
「思い出に、これちょーだい」

濡れた髪を整えもせずに、彼はくしゃくしゃに笑った。
「俺、この絵が好きだったんだ。で、紗矢に聞いたら蕾が描いてるっていうから。だから、ちょうだい。思い出が欲しい」
「駄目だよ。それに先生が探してたよ」

「先生にはもう期待してねえよ。隣の市に行くのはあと半年はここに居たいって言うのに転校したほうがいいって親父寄りの考え方だし」

「……隣なら、そんな遠くもないし」

駅で二つか一つだ。電車でで一時間半もかからないぐらい。

「は。優等生。先生みたいな模範解答」

陣之内くんは小馬鹿にして笑うと、絵を壁から剥いだ。
言葉は乱暴なのに、絵は丁寧に扱ってくれた。

まるで溶けてしまう綿菓子のように、幻を掴むような、そんな優しい手だった。
「模範解答ってどういう意味?」
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