優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。

美術室の外の窓がバンバン叩かれて、そちらを見ると水着姿の陣之内くんが必死の形相で窓を叩いていた。

 それと同時に百合ちゃんが倉庫の方へ逃げていくのも見えた。
 すぐに鍵をあけて、腕を引っ張って中に入れる。

 プールの塩素の匂いと、冷えた美術室にむあっと夏の匂いが入り込んだ。

「やべえわ。ちょっとさ、あいつの怒鳴り声うるせーって思って、ホースの水かけただけなのに、マジ切れ。尻、蹴っ飛ばされた。虐待じゃね?」
「注意してる先生に水をかける陣之内くんの方がわるいよ」
「そお?」

「先生、着替えを持ってなかったら濡れたまま帰るんじゃないでしょうか」
 可哀そうに、と思って発言したのに、陣之内くんはぶはっと笑う。

「パンツぬれたまま電車とか乗るの? やばくね?」
「陣之内くん!」
「津田」

 笑って倒れ込んだ陣之内くんを睨んだのと同時に、またもや外から先生の声がした。
 やかんのように沸騰して真っ赤になった織田先生だった。

「ここに陣之内の馬鹿は来なかったか?」
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