優大くんの言動はマシュマロみたいに甘くて軽い。
その日の帰り道は、全てが初めて見る色と、景色だった。全てが色鮮やかに見えた。
いつも見える茜色の空にそびえ立つ工場の煙突が、家までの道路が、空気が、ヒマワリが咲き乱れるお花畑みたいだった。
空って、空気って、この道って、こんなに綺麗だったっけ?
こんなにドキドキしたっけ?
首を傾げつつも、どうしても夜に沈んでいく空が美しくて、私は家まであと数歩の場所で立ち止まって空を見ていた。
受験の夏。勉強が一番。学生の本業は勉強である。
大人に言われていたその世界が、美しい色で染まっていく。
私はこの気持ち、この湧き上がる感情の名前を知らない。
知らないけれど、涙が浮かぶほど切なくて苦しくて、そしてじわりと小さく幸せだった。