【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「遅い」
真澄さんが待っているといった場所に到着して、車のドアを開けた途端の第一声がこれ。
「そんなこと言われても、仕事が終わったのが六時半なんですから」
「違う。病院からここまでの時間が掛かりすぎだ」
ああ、そういうことですか。
だって、しょうがないじゃない。生まれつき運動音痴で、ハイハイも歩き始めるのだって遅かった私は、運動会の徒競走や持久走大会でいつもブービー賞ばかり。スポーツは何をやったって、上手くいかなかった。
一生懸命走ったのよ。それなのに、「遅い」の一言で片付けられるのは納得いかない。
「違います。車できた、真澄さんが早いんです」
そういう問題じゃないのはわかっている。でも今はなんとも情けないが、そんなことでしか対抗できない。
「物は言いようだな」
わたしが車に乗り込みシートベルトを締めると、真澄さんはそう言ってふっと笑い、車を走らせた。
「歯はどうだ? まだ痛むか?」
唐突にされた質問に、昼間痛んでいた頬を押さえる。
「もらった薬飲んだからか、今はほとんど痛みません。ありがとうございました」
「そうか。その様子なら、土曜まで大丈夫そうだな」
心配してくれていたのか私の言葉を聞いて、真澄さんは安堵の表情を見せた。でもその顔は至極真面目で、なんだかんだ言っても医者なのだと痛感した。