【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
震える自分の体をギュッと抱きしめると、力なくうなだれる。
「ねえ、蘭子。去年のクリスマスイブの日のこと覚えてる?」
「クリスマスイブ?」
「そう。あの日愛川先生、実家のご両親から緊急の呼び出しがあったよね?」
「え? あ、はい。乙葉さんとご飯、行きましたよね」
ひとり寂しいクリスマスイブを過ごさなくてよかったけれど、それがどうしたというのだろう。
「その日から結婚の話が進みだした。ってことはない?」
「あ……」
乙葉さんにそう言われ、心当たりがあることに気がつく。
真澄さんはクリスマスイブ以降、度々実家に行っていた。最初こそ本当に実家に行っているのかと疑っている自分もいたが、最終的には彼のことを信じると自分で決めた。
まさかご両親と、結婚の話を進めていたなんて……。
真澄さん、ひどい──。
ずっと我慢していた涙が、一筋頬を伝う。
「その様子だと、心当たりがあるって感じだね。蘭子、ごめん。私が愛川先生なら大丈夫なって言ったから……」
「そんなこと……。乙葉さんは何も悪くない、真澄さんの言葉を信じたわたしがバカだったんです。ちょっと考えればわかりそうなことを、恋愛経験のないわたしは……うっ」
もうダメだ。我慢しきれなくなった悲しみが涙となって溢れ出し、こらえきれない気持ちは嗚咽と変わって喉を震わせた。
「蘭子……」
乙葉さんに背中を擦られると、その手のぬくもりに、しばらく涙は止まらなかった。