【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「物好き、かあ。そうでもないと思うけど。まあ今日のところは満足かな。ところで高梨さん、君にひとつ朗報があるんだけど、聞く?」

満足って、何が満足なんだろう。意味が全くわからない。しかし最後の“朗報”というのはちょっと気になる。気にはなるけど、相手は愛川先生だ。朗報と言っておいて、悪報の可能性がないわけじゃない。ここは慎重にいかないと。

バッグを拾い上げ、身を護るように抱きかかえる。椅子に深く腰掛けると、慎重に話しかけた。

「あの。朗報って、なんですか?」
「俺もこの病院の関係者だ。君がここで一晩過ごすのは認められないけど、しばらく生活するのに良いところを知ってる」
「ほ、ほんとですかっ?」

これはまさしく朗報だと飛び上がり、グギッと痛むお尻に悲鳴を上げ椅子にゆっくり座り直す。腰のあたりを擦っていると頭の上に手が乗せられ、ポンポンと撫でられた。

「まったく、高梨さんってバカなの? 自分の体は自分でも労らないと。で、どうする、行く? 行かない?」

腰をかがめた愛川先生に顔を覗き込まれ、距離の近さにドキッとして首をすくめた。

愛川先生はどうしてこういうことを、いとも簡単にしてしまうのか。からかっているのなら、やめてもらいたい。いちいち心臓がおかしな動きをして、息苦しくなっちゃうじゃない。

でも今のわたしは文句を言える立場にない。ここはしばしの辛抱だと、じっと我慢した。

「い、いきますっ! よろしくお願いします!」

藁にもすがる思いでそう言うと、勢いよく頭を下げた。

よかったぁ、これでしばらくは生きていける!

十二月の寒空の下、野宿じゃなく部屋で暮らせるのであればどこでもいい。

自分の住処を確保してテンションが上がりっぱなし。愛川先生の言葉を信じ、何ひとつ疑うことなく、彼に連れられ車に乗り込んだ。



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