【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
それから小一時間後──

「……なんですか、ここ?」

車から降ろされたわたしは自分の前にそびえ立つ建物を見上げ、あんぐりと大きく口を開けて立っていた。

「なんですかって。俺が住んでるマンションだけど、何か?」

何かって、それはこっちのセリフ。

良いところを知ってるというからついて来てみれば、愛川先生の自宅マンションとか。話が違うじゃないかと、顔をしかめて彼の顔をまじまじと見上げる。

「寒いから、さっさと中に入ろう」

そう言って愛川先生はわたしの背中に軽く触れ、中に入るよう促した。

「凄い……」

この辺りに住んでいる人なら誰でも知っている、有名人か金持ちしか買えないとして名高い超高級マンション。噂でエントランスが豪華だと聞いて一度拝見してみたいと思っていたが、まさかこんな形で見ることができるとは……。

「って、違うし!」
「どうしたんだよ、いきなり」
「いきなりも何も騙すなんて、こんなの詐欺じゃないですか! 愛川先生のマンションが良いところ? 信じられない。いくら住むところがなくたって、先生と一緒になんか暮らせません!」

一気にまくしたてて、息が上がる。

愛川先生は、一体何を考えているのだろう。結婚前の女性が、独身のしかもひとり暮らしの男性の部屋に、たとえ一時期だとはいえ暮らせるわけないじゃない。

そんなこと少し考えればわかりそうなものなのに、愛川先生こそバカなんじゃないの。

キッと怒りを込めた目で見上げるが、愛川先生は飄々とした顔でわたしのことを見返しているた。



< 23 / 258 >

この作品をシェア

pagetop