【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「そうか、わかった。じゃあいいんだ、宿直室に忍び込もうとしていたことを偉い人に話しても」
「はあ!?」

突然の愛川先生の言葉に、自分の耳を疑った。

今のは脅し、なんだろうか。愛川先生が自分を脅迫している? この男は、どれだけ私のことをバカにすれば気が済むのだろう。

あきれて物が言えない──その言葉が浮かび、大きく首を振る。

「朝晩二食付きでなんでも使い放題、もちろん家具家電付き。しかも部屋の中は、ポカポカに暖まっている。こんな良い物件、他にないと思うけど?」

愛川先生はそう言って顔を近づけるが、もうそれにいちいち反応して逃げるような気力もない。

今入ってきた自動ドアの外を見れば冬の冷たい風が吹き、一段と冷えているように見える。このまま外に放り出されては、凍死は決定的。明日の新聞の朝刊に『若い女性、住むところなく凍死か…』という見出しが目に浮かぶ。

どうするの、蘭子。

自分で自分に問いただす。けれど何をどう考えても、答えなんて出てきてはくれない。ただひとつわかったのは、今のわたしには愛川の脅迫に屈するしかないということだけ。

愛川先生の言葉を鵜呑みにし、のこのことついてきてしまった自分を殴りたい。でも今更何をしても後の祭り。仕方なく愛川先生に向き直り、おずおずと顔を見上げた。

「何もしないですか?」

わたしの問いかけに、愛川先生の眉間に一瞬シワが寄る。

「何もしないって、何?」
「だから、その……突然背後から襲ってきたり、布団の中に忍び込んできたり……」

言っていて、どんどん顔が赤くなっていくのを感じる。

むちゃくちゃ恥ずかしいんですけど……。

わたしは何を言っているのだろう。夕方からいろいろありすぎて、ついに頭がおかしくなってしまったのか。



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