【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
でもこういうことは、はじめが肝心。少しでも隙を見せてしまったら、いつどこでパクっとさっくり襲われてしまうかわからない。

ここは気を引き締めて強気にいかなきゃと、手を思いっきりギュッと握る。

「とにかく。私から半径一メートル以内には、絶対に入らないでください!」

言った、言ってやった。

なんとなく肩に乗っかっていた重しが取れたようで、満足気に微笑む。でも愛川先生は話をちゃんと聞いていなかったのか、わたしの手を強引に取った。

「なんだ、そんなこと。わかったわかった、約束するよ。で話はそれだけ? 終わったなら上に行きたいんだけど、ちゃんと歩ける? また抱っこしようか?」
「い、いえ、いいです。あの、手、手は……」

この距離だ。わたしの声は届いているはずなのに、愛川先生は話を勝手に進め歩き出した。状況がうまく飲み込めない。

たった今、半径一メートル以内には近づくなと言ったはずなのに、約束すると聞こえたのは、あれは聞き違いだったの?

どうして自分が愛川に手を握られ歩いているのかわからない。もしかしたら彼には、常識は通用しないのだろうか。

手を引かれたまま考え込むわたしと反対に、愛川先生の顔はいたって普通。もう溜息すら出ない。

とにかく今は、彼についていくしかない。

不安な気持ちを抱えたままの私は愛川先生の後ろ姿を追い、マンションの最上階へと向かった。




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