【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「蘭子、こっち」

おそらくこの先はリビングだろう。愛川先生に呼ばれ廊下を進み、彼の隣に立つ。
「いいか? 今から良いものを見せてやる」

そう言うと愛川先生はわたしを見つめ、ドアノブを握り、カウントダウンし始めた。
「10、9、8、7……」

刹那、期待感に覆われる。と同時に、不安感にも苛まれる。

小一時間前に騙されたばかりで、愛川先生の“良い”は信用できない。これは天国へのカウントダウンではなく、地獄へのカウントダウンではないのか。

期待感より不安感が勝っていき、緊張した面持ちでドアが開くその時を待つ。

「……3、2、1……ゼロッ!!」

派手にドアが開かれると、ただ真っ暗な世界が広がっているだけ。

少しは期待してたのに……。

やっぱり騙されたのかと小さく溜息をつくと、愛川先生の手が背中に軽く触れたのを感じた。

「な、なに……」
「いいから入って。奥まで行ってみ」

背中をそっと押され、暗い部屋へと恐る恐る足を踏み入れる。が、途中まで来ると少し目が慣れてきて、窓の外の景色に目を大きく見開いた。

「うわぁー! 愛川先生、これ……」

正面の大きな窓に駆け寄ると夜景が一望できて、一気にテンションが上がる。興奮気味にガラスに顔を近づけ外を見ていると、ふと背中に気配を感じ振り返った。

「だから言っただろ、良いところだって。ここで暮せば、毎日この景色が見れる」

愛川先生は百九十センチ近くある身長を屈め、わたしと目線の高さを合わせる。自然と顔の距離が縮まり、慌てて体を後ろに逸らした。



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