【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「ち、ちかいです」
「まだ慣れない?」

そう言って愛川先生は苦笑するが、こればかりはすぐに慣れるものではない。助けを乞うようにバッグをギュッと抱きしめ、その場から離れた。

こんな時、自分と同じ歳ぐらいの女性なら、どんな態度で接するのだろう。

ここはひとまず、愛川先生が苦手だということは置いておいて。病院内でもトップの人気を誇る愛川先生と、彼のマンションでふたりっきり。

たとえ一ヶ月とはいえお世話になるのだから、もっと柔軟な態度で接すれば、もっと面白い話でもできれば、楽しく過ごせると思うのに。素直になれない自分がいる。

脅迫めいたことを言われたとは言え、住むところを提供してくれる愛川先生に対しての今までの態度は、きっと彼に不快な思いをさせているに違いない。

私ってホント、堅物でつまらない女だ……。

相手のこともよく知らないくせに勝手に高い壁を作り、自分からシャットアウトしてしまう。こんな女と一緒にいたって、面白くないに決まっている。

だから今まで彼氏ができなったんだと、小さく溜息をついた。

「どうした、疲れたのか?」
「いえ、大丈夫です」

そうは言ったが、普段考えないことを考えていること自体、疲れているのだと思う。

今日はいろいろあり過ぎた。明日は土曜日で早く寝る必要もないが、起きている気力も失せた。今日はもう何もしないで、何も考えないで、寝てしまいたい。

バッグを抱え直すと、寝床はどこだと辺りを見渡す。


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