【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「少し話すか?」

愛川先生は肩肘をつき掌で頭を支えると、わたしを見据えた。

ああ、少し付き合ってやるというのは、このことだったんだ。

お前から何か話せというように顎を上げて見せた彼に、少し戸惑いながらも口を開く。

「ひとつ聞きたいことが」
「ん、何?」
「病院での愛川先生と今の愛川先生。どっちが本当の先生なんですか?」

なにげに、気になっていたこと。

病院にいるときの愛川先生は、こう言っては悪いが軽薄そうで、明るく朗らかに見えるが女癖も悪そうに見えた。そういうところが苦手で、極力彼に関わらないようにしていたのだ。けれど今ここにいる愛川先生からは、病院で感じるような軽薄さは一切しない。どちらかと言えば年相応な紳士的な、大人な男性に見える。

強引でぶっきらぼうだけど、どことなく優しさを感じる愛川先生に対し、強ばっていた心は次第に解けはじめていた。

本当の愛川先生が知りたい──

その気持ちが期待となって、彼を見つめた。

「どっちが本当の俺って……」

聞いてはいけないことだったのか、それとも期待に気づいたのか、愛川先生にしては珍しく口ごもる。彼は目を泳がせながら頭を掻くと、大きな溜息をついた。



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