【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「いえ、そんなこと愛川先生にさせるわけには……」

世話になるのは自分の方なのに、愛川先生に夕飯を作らせるわけにはいかない。ひとり暮らしも四年経って料理もそこそこできる。自分が作るつもりでキッチンへと向かったが、愛川先生の姿を見て足を止めた。

スーツの上着を脱ぎシャツの袖口をくるくるとたくし上げ、ギャルソンエプロンを手際よく腰に巻きつける。冷蔵庫の中から数種類の食材を取り出すと、大きな鍋に水を入れ火にかけた。

手際がいい。なんか、ちょっと意外かも。

今の愛川先生からは、いつもの軽薄感が感じられない。話し方も病院にいるときとは全く違って、かなりつっけんどんな口調だが、何故か嫌な感じはしない。むしろこっちの方が良いんじゃないかとまで思ってしまうくらいだ。

「変わった人……」

小声でつぶやき何気なく愛川先生を見つめていると、ふと顔を上げた彼と目が合い、即座に目を逸らした。

「そんな露骨に逸らさなくてもいいだろう。何、なんか用?」
「いえ、その。手慣れてるなと思って」

うつむきがちにそう言うと、愛川先生は「ああ」と言って包丁を持つ手を止めた。

「三十で独身だと料理も慣れるんだよ。それに俺は外食が苦手で自炊派」

愛川先生はぶっきらぼうにそう言うと、首の後ろをガシガシと掻いた。



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