【甘すぎ危険】エリート外科医と極上ふたり暮らし
「悪い、待ってて」

愛川先生は私を抱きかかえ、キッチンの隅においてあるスツールチェアに下ろす。すぐさまコンロに移動して火を消すと、茹で上がったパスタをザルに上げ湯切りをする。それをボールに準備されていたソースに加え絡めると、キッチンに濃厚なチーズの香りがふわっと広がった。

「カルボナーラでいい?」

この匂い、カルボナーラだったんだ。

今更、良いも悪いもない。もうボールの中にはカルボナーラができている。それにカルボナーラは、わたしの大好物だ。

「はい」

小さな声で答えると、愛川先生は「了解」と皿に盛り付け始めた。

その姿は、至って普通。数分前、わたしにキスをした人とは思えないほど、何事もなかったように動いている。

あれは一体なんだったの?

そっと唇に触れれば、まだ愛川先生の唇の感触がハッキリと残っていた。

「ファーストキス」
「え?」

ふいに言葉を投げかけられ、愛川先生を見上げる。でも先生は、こっちを向いていない。

「男と付き合ったことがないなら、今のがファーストキスだよな?」

愛川先生の目線は、キッチンに向いたまま。手際よくレタスをちぎりトマトをスライスすると、みるみるうちにサラダが出来上がっていく。

それをぼんやり眺めながら、小さく頷いた。



< 44 / 258 >

この作品をシェア

pagetop