終わりは始まりか ~私達の場合~
こんなプライベートを他人に話すのは初めてだ。

ずっと自分の胸にしまっていた思い。

麻生くんはうなずきながらも、程よい距離間で聞いてくれていた。

そこで私はハッとする。

「初めての人にこんな話をするなんて…。ごめんね、迷惑だったでしょう。」

麻生くんは優しい表情を見せた。

「宮園さんって、下のお名前は何て言うんですか?」

麻生くんの唐突な言葉に、私は首をかしげながら答えた。

「美しい月と書いて、“美月(みづき)”って言うの。きれいな名前を付けてもらったんだけど…、年を取るとおこがましい感じがしちゃってね。」

私は気恥ずかしさを隠すために、またグラスに口をつける。

こんな仕事人間の表情がこの名前にそぐわない。

いつもそう思っていた。

「美月さん、何でも俺に話して下さいよ。気の利いた返しは出来ませんけど、じっくり付き合いますから。」

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