終わりは始まりか ~私達の場合~
そして次の瞬間、麻生くんはふっとため息をついた。

「こんな風に聞いても、美月さんが答えない事は充分分かっているんですけどね。やっぱり俺は少し焦っているようです。」

少し照れたような隙のある表情を、麻生くんは見せた。

「仕事は凄く忙しくて充実しています。こないだの施主さんの件があったので、いわゆる“難しい”施主さんが俺に回ってくるようになりました。」

そう、ハウスメーカーの規格内で自分の思い描いた家を最後まで実現しようとするお施主さんは大変だ。

そういうお施主さんはいっその事、私達のような設計事務所の方が合っている。

どうしてもコストが高くなるのが難点だが、その分自由度がぐんと広がる。

伊吹のように腕のいい大工なら実現出来る空間も多いのだ。

特にうちの場合、大工だけではなく、当然その他の職人さん達も強者ばかりだ。

「凄いわね。」

私は麻生くんに微笑む。

やっぱり私の目に狂いはなかったようだ。

< 66 / 181 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop