Mirror Ball
「麻生さんわァ、下の何て言うんですかァ?」
「エリカ」
「いいなァ〜。ゅりも、そんなカワイイ名前とかがよかったァ〜」
とか。
ゆりには、ネームプレートの「眞智子」と言う文字を、「エリカ」と読む能力が在るらしい。
「ぇー、麻生さァん、ぉ休みの日とかヒマなら、ぃっしょに遊びにぃきましょーょ」
おや、好都合だ。ゆりが眞智子を遊びに誘って来た。眞智子は誘いに乗る事にする。少し様子を窺いながら、ゆりとの距離を詰めて行く。
「ゆりちゃんは、歌舞伎町には良く行く?」
ゆりは、眞智子に姓では無く、名で呼ばれた事には気付いていない様子だ。
「カブキはょく行きますょぉ。トモダチとか多ぃしぃ」
成る程、近頃じゃあ「歌舞伎町」を「カブキ」と言うのね。眞智子は、ゆりが少し好きに成った。
「ゆりちゃんは、歌舞伎町に何しに行くの?」
「ん〜、ゅりわァ、踊りに行きますぅ」
「踊りって事は、クラブ?」
「そぉですょぉ。ぃっしょに踊りにいきましょぅょ!」
クラブか。悪くない。眞智子はゆりがもっと好きに成った。
「でもぉ、クラブだとォールだからぁ、っぎの日ぉ休みの日がぃぃですよねぇ」
そう言う所には考えが回るゆりに、呆れながらも感心した。
「次の休み、いつ?」
「ゅりわぁ、ぁしたぉ休みですぅ」
「じゃあ、今日の夜行こう。アタシも明日休みだから、丁度良いよね」
「きょぅですかぁー?」と、ゆりは戸惑っていた。
「都合悪い?」
「わるくなぃですけどぉ、きょぅならトモダチのカレシが回してるんで、シブヤぃきませんかぁ?」
「渋谷だと家まで遠く成るし、歌舞伎町の方が都合が良いんだよ」
眞智子は灰皿に、フィルターだけに成った煙草を押し付けた。それを観たゆりの眼が、「下手い事をした」と物語った。
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