片翼の蝶
嫉妬と憧憬
夏。
灼熱の午後。
プールから上がった生徒たちが
更衣室に群がる。
体についた水滴をタオルが吸い取っていく。
濡れた髪はしっとりと体に張り付く。
涼しくて気持ちいいのは一瞬だけ。
じりじりと焼け付く太陽が
とてつもなく憎かった。
「茜~。置いてくよ?」
「待って!すぐ行く!」
着替えを急いで済ませてロッカーを閉める。
まだべとつく体が気持ち悪い。
靴を履いて更衣室を出ようとした時、声がした。
〈寂しい。寂しい〉
ぱっと振り返る。
私はロッカーのそばをじっと見つめた。
「茜。早くぅ」
「はーい」
友達のイラついた声に応えると、
私は更衣室を後にした。
教室に戻るとすでにみんな席に着いていて、
私だけが教室の扉の前に立ち尽くしている。
慌てて席に着くと、
ちょうどチャイムが鳴った。
机の中から現国の教科書とノートを取り出して先生を待つ。
しばらくすると先生が勢いよく扉を開け放った。
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