片翼の蝶



「真紀は、安心して天国に行ったのかなぁ」


部屋に着いて、私はふと珀に向かって聞いた。


珀はうんと一つ頷いて、それから笑った。


〈行けただろうな。
 あの世に行くっていうことはそういうことだ〉


「あなたもいつか、あの世に行くの?」


〈さあな。俺は行かないかもしれない〉


「そうなの?」


〈分かんねぇけどな〉


そう言えば、珀はなんでこの世にいるんだろう。


やっぱりまだ、珀にも未練があるのかなあ。


「あっ、そう言えば手紙!」


〈あ?〉


「手紙、もう一つ渡さないといけなかったよね?」


〈今気付いたのか〉



はあっとため息をついた珀は額に手を当てた。


ずっとカバンに入れていた手紙を引っ張り出した。


ピンク色の手紙は綺麗にカバンの奥に入っていた。


その手紙には奥平真奈美と書かれていた。


梨花の本名だ。


私はその手紙を眺めて、大きく伸びた。


「これ、梨花に渡さないといけないんだよね」


〈ああ〉


「梨花、どこにいるんだろう」


〈忘れたのか?同じ高校にいるだろう〉



そうだった。すっかり忘れていた。


珀と同じ高校ということは
私と同じ高校でもあるんだった。


それなら見つけやすいかもしれない。


「明日、他のクラス当たってみるね」


〈頼むぞ〉


「おやすみ、珀」


〈ああ、おやすみ〉


そう言うと、珀はパチンと消えた。


私はベッドに入って電気を消した。




真紀は、あれで良かったのかな。


交換日記は大地に預けた。


きっと彼はそれをずっと大事に持っているんだろうな。


そうであれば真紀も幸せだろう。


素敵な恋を目の当たりにした。


あの体験はきっと、私の糧になる。


私もあんな恋がしたい。


誰かにあんなふうに好きだと言われたいし、
誰かに好きだと言ってみたい。


あんな素敵な思いを代筆出来て良かった。


本を読んだわけじゃないけど、
きっと今夜は、素敵な夢を見るだろう。





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