片翼の蝶
真奈美と珀






夢を見た。


真紀と大地が巡り合って恋をする夢を。


とても幸せそうだった。


大地はどうだろう。


私のように、真紀の夢を見るのかな。


せめて夢の中だけでも、
真紀と会話をしてほしい。


そう思いながら目が覚めた。


「おはよう」


「茜、最近目覚めがいいわね。
 なんかあった?」


「別に何も」


リビングに行くと、朝からお母さんがニヤニヤしていた。


目玉焼きをつつきながら私は淡々と答える。


何かあったと言えば、あった。


珀と出会ってからいろんなことがあった。


それは私にとってとてもいいことの連続で、
出会う前の私とは確実に何かが違った。


でもそれをお母さんに話すつもりはない。


言ったってどうせ信じないもんね。


ご飯を食べ終えて、制服に着替えた。


今日は、梨花に会うんだ。


緊張する。会ってくれるかな。
その前に、梨花は生きているのかな。





電車に揺られて、学校までの道のりを行く。


欠伸をして窓の外にある景色を眺めた。


あれから電車に乗るのはいつも気が引ける。


痴漢が怖くて学校に通えないなんて
恥ずかしすぎるから行くけれど、
本当は怖くてたまらない。


その度に、助けてくれた珀を思った。


そういえば珀の姿を見ていないけれど、
どこかで私のことを見ているのかな?


そう思うと一人じゃない気がして、
私はリラックスして電車に揺られた。





学校に着いて、自分の席に腰を下ろす。


すでに貴子が来ていて、私を見つけると
にこりと笑って手を振った。


でも、以前みたいに取り巻きを連れて
私のところにはやってこない。


今も取り巻きと楽しそうに話しているけれど、
無理やり私を会話に混ぜようとしない。


それは珀の手紙のおかげ。


本当に、それだけで私の高校生活は
安心できるものになった。




カバンを置いて私は立ち上がった。


まずは隣のクラスから当たってみよう。


教室を出て隣の教室に顔を出す。


近くにいた女の子を捕まえて、
奥平真奈美という子がいないか聞いてみた。




ビンゴ。
こんなに早くゴールに辿り着くなんて。



「ああ、真奈美ならいるけど?」


女の子は頷いてにっこり笑うと、
教室の奥に向かって目を向けた。


私もそれに合わせて目を向ける。


女の子が「真奈美!」と大きな声で呼んだ。


すると、何人かで集まっていた輪の中から女の子が一人、
ひょっこりと顔を出した。



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