片翼の蝶
女の子は私たちにゆっくりと近づいてきて、首を傾げた。
私は震える手で手紙を握りしめた。
皺になると思って慌てて手を緩める。
とても綺麗な女の子だった。
梨花は、ううん、真奈美は長い黒髪を一つに束ねていて、
くりくりの眸を揺らして私を見ていた。
背は私より少し低いくらい。
目元に泣きホクロがあるのが特徴的。
真奈美は訝しげに眉を顰め、
何も言わずに真奈美を見つめている私を見た。
不快感いっぱいの眼差しを向けられて、
慌てて目を逸らしてしまう。
「何?あなた、誰?」
「あ、あの、私茜って言います。
真奈美ちゃん、だよね?」
「そうだけど?」
見た目と反して、口調はとてもキツイ。
思い描いていた梨花と違っていて少し驚いてしまう。
真奈美は警戒の目を解こうとせず、
挑むように見てきた。
「あの、ちょっと渡したいものがあって……」
「何?」
慌てて手の中にあったピンク色の手紙を差し出す。
真奈美は更に眉を顰めて手紙を見つめた。
けれど差出人の「杉内珀」という名前を見て、
眸を大きく揺らした。
「これ、どこで……!」
「渡してって頼まれたの。読んであげて」
「あなた、珀とどういう関係?」
「ど、どういうって……その、友達、だけど」
大志の時も思ったけど、
どういう関係かと聞いてくるのは当然だよね。
友達っていうのも苦しい。
だって死んだ人間からの手紙を届けに来るなんて、
普通の友達じゃ考えにくいよね。
ましてや私みたいな薄い人間に、
珀が頼むなんておかしい話。
しかも相手はあの片翼の相手、
真奈美なんだから。
普通なら、真奈美が大志への手紙を頼まれたっておかしくはない。
この手紙だって、珀から死んだら読んでくれって
言伝られていてもいい。
いや、絶対にその方が合っている。
それなのに私?
なんでこいつがっていう眼差しを向けられた。
「ふうん。そんないたずら、不謹慎よ」
「い、いたずらなんかじゃ……!」
「珀はそんなことしない。
あたしに手紙なんて、書いたりしない」
「でも!」
「帰って。そんなもの、受け取らないよ」
真奈美はぴしゃりと言い放つと、
扉を強く閉めてしまった。
閉め出されて唖然とする。
差し出したままの手紙を呆然と見つめる。
私はそのまま、立ち尽くすしかなかった。