片翼の蝶
〈うーん。やっぱり受け取らないか〉
「珀」
それまで姿を見せなかった珀が
気付いたら私の隣にいて、腕を組んでいた。
予想していたのか、珀の反応は薄かった。
珀はボリボリと頭をかくと、また一つうーんと唸った。
〈こりゃ大志よりも手強いぞ。大丈夫か?〉
大丈夫じゃないよ。
真奈美の有無を言わせない迫力には驚いた。
絶対に受け取ってくれない。ガードが固すぎるよ。
どうしたものかと頭を悩ませる私をよそに、
珀は楽しそうににやにやと笑っていた。
他人事だと思ってないかなぁ。
こっちの身にもなってほしい。
「どうすればいいの」
〈うん、こればっかりは体当たりで行くしかないな。
俺にもどうにもできない〉
一縷の望みも期待薄。
私はがっくりと肩を落とした。
「やるしかないか」
〈頑張れ、茜〉
本当に、他人事だと思って。
珀を思い切り睨みつけてもしょうがない。
私は一つ大きなため息をつくと、
もう一度扉を開けて大きく息を吸った。
「真奈美ちゃん!」
自分でも驚くくらいの大声で真奈美を呼んだ。
友達の輪の中にいた真奈美は驚いたように目を見開いて私を見た。
周りの生徒も、みんな私を見ている。
恥ずかしいとは思わなかった。
いつもの私ならこんなこと出来ないんだけど、
やるしかないんだ。やらないと。
真奈美はため息をつくと、
友達に断りを入れてすっと立ち上がる。
そして私に向かって真っ直ぐに、ゆっくりと歩み寄った。
ごくりと喉を鳴らすと、
すごく近くに真奈美の顔がきた。