片翼の蝶



「何なのよ」


「ちょ、ちょっとこっちに来て」


「えっ?ちょ、ちょっと!」


こうなったら強行突破。


私は真奈美の細い腕を掴むと強く引っ張った。


つられて真奈美は体勢を崩し、私の後に続く。


私は人気のない突き当りの廊下まで来ると、
ピタリと足を止めた。


「なにすんのよ」


掴んでいた手を振り払って、
真奈美は私を睨みつけた。


私はくるりと向き直って、深く深呼吸した。


そして、手の中にある手紙を
真奈美の胸元へ強く押し込んだ。


「手紙、受け取って」


「嫌よ」


「受け取って」


「嫌だって!」


互いに睨み合う。


ここはもう、一歩も譲れない。


モヤモヤしたままじゃいられないもの。


私は早くこの頼みごとを完了して、
気持ちよく小説を書くんだから。


「そんなに言うなら、テストするね」


「テスト?」


「あなたがどれだけ珀のことを知っているか」


真奈美は珀のようににやりと不敵な笑みを浮かべた。


テストって、どんなことをするの?


それに応えられなきゃ、
手紙は受け取ってもらえないんだよね?


ごくりと喉を鳴らすと、
真奈美はコホンと一つ咳をした。


「珀の小学校は?」


えっ?と思って真奈美を見つめる。


ほら、どうした。答えて見ろ。
そう言われているような気がした。


小さく身を引くと、珀の声がした。


〈緑山小学校〉


「み、緑山、小学校」


真奈美は眸を揺らした。


しばらく沈黙が走り、真奈美は口を開閉させて私を見た。


「当たり」


ふぅっと、胸をなでおろす。


そうか、珀が教えてくれるならこのテスト、
応えられるかもしれない。


「珀の好きな食べ物は?」


〈オムライス〉


「お、オムライス」


珀ってそうなんだ?
そんなことをのん気に思う。


オムライスって、
結構子どもっぽいもの好きなんだな。


「珀の一番の親友は?」


あ、それなら分かる。


「赤松、大志」


「珀の職業は?」


「小説家」


真奈美は次第に眸の力を緩めていく。


唇を噛みしめると、ふっと息を吸った。





「珀の、最期の死に場所は?」






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