片翼の蝶
「返す」
「えっ、どうして?」
「バカバカしい。珀らしくないよ。
やっぱりこれ、何かのいたずら?」
「い、いたずらなんかじゃ……」
「処分しといて。あたしは要らない」
真奈美はそれだけ言うと
私の手の中に手紙を押し込めて、
廊下を歩いて行ってしまった。
ポツンと一人取り残されて唖然とする。
そして手紙を見つめて、それから珀を見た。
「あなた、何を書いたの?」
〈別に。特別なことは書いてない〉
「いたずらだと思われたじゃない」
〈どうすっかなぁ。いたずらって言われるとは〉
ははっと笑う珀を見て肩を落とす。
まあでも、これで珀の望みは
叶えたことになるよね?
でも、突き返されちゃった。
「これ、どうすればいい?」
〈受け取ってもらわないと困るなぁ〉
「また渡せっていうの?怖いよ、あの子」
〈お前には難易度が高いな〉
にやりと笑う珀。難易度高すぎる。
多分また会いに行ったりしたら
間違いなく冷たくあしらわれるか、怒鳴られる。
どうしたものかと頭を抱えると、珀はうんと一つ頷いた。
〈まず真奈美と仲良くなれ〉
「ええっ?」
〈仲良くなってから、手紙を渡そう。
そうすれば受け取ってくれるかもしれない〉
そんなこと言ったって、無理だよ。
あんなに警戒心の強い真奈美と仲良くなるなんて、
貴子と仲良くなるよりも男の子と喋るよりも、
何よりも難しそう。
珀は他人事だと思って軽はずみに言い過ぎだよ。
自分がやってみろ!て言いたい……。
重いため息をついて教室に戻る。
机の上にピンク色の手紙を置いて、私は考えた。
どうしたら受け取ってくれるんだろう。
「茜、どうしたの?」
「貴子」