片翼の蝶
いつの間にか貴子が私の前の席に座っていた。
貴子一人だ。
貴子は心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
私は名前と経緯を伏せて現状を説明した。
渡したいものがある子がいるんだけど、
なかなか受け取ってくれないこと。
心を打ち解け合うにはどうしたらいいか。
貴子はうーんと一つ唸って、唇に手を添えた。
ほどよく化粧の施された顔立ちは美しい。
長いまつ毛が下りるのをじっと見つめていると、
ぱっとまつ毛が上がった。
「簡単ね。その子の好きなことを
一緒にやってみたら?」
「好きなこと?」
「そう。ショッピングが好きなら
一緒にショッピングに付き合ったり、
映画が好きなら一緒に映画を観たり、
なんでもいいのよ。
合わせることで親近感を抱いてくれるかもでしょ?」
なるほど。好きなことか。
何が好きなんだろ。
友達と楽しくお喋りしている姿を見れば、
どこにでもいる普通の女子高生。
少しツンツンしているけれど、
それは最初だけかもしれない。
貴子はいつでも、良いことを言う。
やっぱり最高の友達だと改めて思った。
「ありがとう。やってみる」
「いいえ。茜もたまには一緒にどこか行こうね」
「うん」
「あ、授業始まっちゃう」
貴子は急いで立ち上がると、
自分の席に戻っていった。
もう一度、机の上の手紙を見つめる。
この手紙には何が書いてあるんだろう。
〈気になるのか?〉
珀の声がして、私はノートを引っ張り出した。
―ちょっとね。
〈見てもいいぞ〉
えっ?と思って珀を見つめる。
珀はにやりと笑った。
〈特別に読ませてやる〉
ごくりと喉を鳴らした。
手紙にそっと手をかける。
片翼の蝶である真奈美に、
珀はどんな手紙を残したんだろう。
ドクドクと胸が高鳴る。
深呼吸をしながら、私は手紙を開いた。