片翼の蝶
―真奈美へ。突然のことで驚いているだろう。
俺が死んだのは、もう知っているか?
出だしはそんな感じだった。
大志に書いた手紙とは打って変わって、
どこか軽薄な感じが見て取れた。
―「片翼の蝶」は読んだか?
読書嫌いなお前のことだ。
多分半分読んで飽きているだろう。
あれには俺の、思いのたけが書いてある。
出来れば全部、最後まで読んでやってほしい。
お前は強いから、きっと俺が死んだって
どうってことなく生きていられるだろう。
でも、一つだけ、心配なことがある。
お前は前に、「あたしたちは一蓮托生、一心同体だよね」
って、言っていたよな。
あの時俺はそうだなって答えたけど、
そんなことはない。俺とお前は一蓮托生なんかじゃない。
俺が死んだからって、お前まで死ぬことはないんだ。
一蓮托生。死ぬまで生を共にすること。
そして死後の世界でも、共にあること。
片翼である真奈美は、
やっぱり死のうとしていたのかな。
とてもそんな風には見えなかったけど、
胸の内に秘めているのはやっぱり、珀のことなんだろうか。
―お前は、俺の片翼だと言ったことを
本気にしているかもしれないけど、
あんなものただの戯言に過ぎない。忘れてくれ。
お前は自由に生きろ。もう俺に囚われるな
手紙は、ただそれだけだった。
大志のものとは明らかに違う。
内容も薄いし、とても片翼の相手に書くような手紙じゃない。
私はぽかんとして手紙を見つめた。
〈どうした?〉
―これだけ?
〈ああ。言いたいことはそれだけだ〉
なんだか拍子抜け。
もっとすごいことが書いてあるのかと思ったのに。
真奈美はこれを見て、どう思ったのかな。
私はこの手紙の意味が理解出来ずにいた。
だって、「片翼の蝶」を書いたくせに、
一蓮托生じゃないとか、忘れてくれとか、
そんなこと言うなんて。
あれは確かに、真奈美への想いで溢れていたはずなのに。
〈あいつは、死ぬかもしれない〉