片翼の蝶
えっ?と思って顔を上げると、
珀は遠くを見つめていた。
〈その前に、止めてやらないと〉
そうか。珀はそれを予想して
この手紙を書いたのか。
真奈美に死んでほしくなくて、
それでこんな言い方してるんだ。
なんだか納得。それならばこの手紙は、
なんとしても真奈美の手に渡ってほしい。
冗談なんかじゃなく、いたずらじゃなく、
珀自身の思いをちゃんと受け取ってほしい。
私は授業中、ずっと考えていた。
真奈美と珀のこと。
片翼の蝶で読んだ中だと、二人は確かに一蓮托生だった。
何をするにも一緒。時には励まし合い、諭し合い、
一緒に成長していく。
そんな仲だった。
確かに、珀の人生にはなくてはならない存在だった。
それは真奈美にとっても一緒。
珀のおかげで、人生が変わった。
きっと友達とあんなふうに笑い合えていたのも、
珀と出会ったからなんだと思う。
だってあんなに綺麗に笑っていたんだもの。
真奈美を取り巻くオーラは、とても煌びやかで、綺麗だった。
そんな必要不可欠な存在の死。
真奈美が悲しくないはずがない。
きっと彼女は、どこかで傷ついている。
自分の片翼を失って、飛べずにもがいている。
なんとしてでも助けてあげたい。そう思った。
お昼休み、私はご飯を食べずに図書室に向かった。
心を落ち着かせたい時はいつも図書室に行く。
図書室の扉を開けて中に入る。
何の目的もなく書架の間を通り抜けて
本を触っていく。
ぼうっとそれを繰り返していると、
誰かが目の前に立っていた。
本から手を離して顔を上げる。
あっ、と小さく声を上げていた。
「どうしてここに」
「……そっちこそ」
目の前で本を眺めていたのは他でもない、真奈美だった。
真奈美は訝しげに私を見つめると、
嫌そうに顔を歪めた。
私も同じように顔を歪める。
苦手だけれど、なんとか愛想笑いを返して、
目を真奈美の手元に移した。
「蝶」という文字が見えて、もしかしてと思う。
「それ、もしかして珀の本?」
「悪い?」
「あの、悪くはないけど。読んでたの?」
「それ以外になにがあるの?」