片翼の蝶
うう、やっぱり好きになれない。
どうしたら仲良くなれるんだろう。
真奈美は「片翼の蝶」を閉じて胸に抱きしめた。
「それ、全部読んだの?」
「……まだよ」
「そっか」
「あなたは、読んだの?」
真奈美の問いかけに、私は静かに頷いた。
面白いよって言えば良かったかな?
でも、私が上から物を言うみたいな感じになってしまう。
そうなったら真奈美の性格上、
小説を読んでくれなくなっちゃう。
だから私は頷くだけにしておいた。
「よく読めるわね。文字ばっかりなのに」
「文字だけでも、想像すると情景が見えてくるよ」
「ふうん。そういうものなの?」
「うん。いつの間にかお話の世界に
自分が入り込んでいって、
主人公と一緒にその時間を生きるの。
ああ、こんなふうに考えて、
だからこうなったんだなとか、
これはどうしてだろう?とか、
色々考えることが出来て。
特にこのお話は翔太が梨花のことを……」
はっとして口を噤んだ。
しまった、つい色々語るところだった。
私の悪い癖ね。
興味もない人に熱く語ったって意味ないのに。
うざいと思われちゃう。
「ご、ごめん。つい」
真奈美は目を丸くして私を見つめると、
そのうちプッと吹き出した。
ここは図書室だというのに、豪快に笑う。
でも私たちの他には誰もいなくて、
静かな図書室に真奈美の朗らかな笑い声が響き渡った。
拍子抜けして、ぽかんと真奈美を見つめる。
真奈美は笑い過ぎて浮かべた涙を拭った。
「あなた、変わってるね」
「よ、よく言われる」
「それじゃあ生きにくいんじゃない?」
そうかもしれない。
こんな性格じゃなかったら今ごろきっと、
もっと上手に世の中を渡り歩くことが出来ていたのかもしれない。
友達も沢山いて、
貴子のような憧れの存在になれていたかも。
真奈美はひとしきり笑った後、コホンと一つ咳をした。