片翼の蝶



真奈美は正面を向いて眸を揺らした。


ちょうど向けた視線の先に珀が立つ。


二人は向かい合っていた。


真奈美はちっとも分かっていないけれど。


「は、珀……」


ポツリと珀の名前を呼ぶ。


〈何?〉


珀はその呼びかけに答えるように声を上げた。


私は珀の言葉を代わりに真奈美へ告げた。


真奈美は驚いて目を丸くし、口を開閉させる。


顔はさっと青ざめていた。


「ほ、本当に、見えるの?」


「うん。何故か分からないけど、
小さい頃から見えるの」


「拍が、本当にここにいるの?」


「うん」


私が頷くと、真奈美の眸から涙が一滴零れた。


〈真奈美、手紙を受け取れ〉


「手紙、受け取ってって。言ってるよ」


「じゃああの手紙は、本当に珀が?」


真奈美は眸を揺らしてそう聞いた。


そして眸を伏せる。
唇は微かに震えていた。


珀はその白い腕をすっと伸ばして、
真奈美の顔に近付けた。


頭の上に手を置くように、
すっと手を伸ばすけれど、その手は通り抜けてしまう。


その手を引っ込めて、じっと見つめた。


そして自嘲気味に笑った。


〈撫でてやることも出来ないか〉


私はポケットにしまっていたピンク色の手紙を取り出して、
真奈美の前に差し出した。


真奈美はそれに気付いてはっと目を見張ると、
震える手でそれを受け取った。


もう一度、手紙に目を通す。
するとぽろぽろ涙を流し始めた。


「酷いよ、珀。あたしたちは一蓮托生だって、
そう言ったじゃない。
死ぬまで一緒って言ったじゃない。
死ぬ時も一緒だって、言ったじゃない」


真奈美は泣き崩れた。


顔を覆って、その場にへたり込む。


その様子を、珀は冷たい目で眺めていた。


何を思っているんだろう。


片翼の相手が、こんなに自分を思って泣いているのを、
珀はどう思っているんだろう。



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