片翼の蝶
最期の願い
✻
夏が過ぎて、秋が顔を見せたかと思うと、
またすぐに冬が来た。
今年の冬は極寒だと言われているのか、
身震いするほどの寒さに驚いた。
布団から出たくなくて毎朝苦労する。
でもあまりにも耳元で珀が騒ぐものだから、
すぐに飛び起きてしまう。
今日も珀にたたき起こされて目が覚めた。
ぶるぶると身を震わせる。
もこもこと厚着を―といっても制服だから
あまり厚着はできないけれど、
出来る限りの厚着をしてリビングへ行った。
リビングでは寒そうに身を縮こませたお父さんが
ココアを飲みながらニュースを見ているところだった。
お母さんは冬でも寒そうにすることはなく、
むしろ暑そうに手をパタパタさせながら
リビングを動き回っている。
私は食卓についてパンをかじった。
「ああ、茜。おはよう。ココアいる?」
「うん。おはよう」
「勉強の方はどう?進んでる?」
「大丈夫。そういえばまた成績上がったよ」
「そう!良かったわね、ねえ、あなた」
お母さんは目を輝かせてお父さんを呼んだ。
お父さんはテレビから目を離して、私を見た。
そしてにっこり笑うと、「そうだなぁ」と頷いた。
「週末、どこかに出かけようか。
久しぶりにみんなで」
「いいわね。どこに行く?」
「温泉なんてどうだ?」
お母さんが喜んで手を叩く。
温泉なんて何年ぶりだろう。
小さい頃はよく行ったけど、
大きくなってからはあまり行かなくなった。
温泉は私も好きだから行くのはいいんだけど……。
本当に、家族で出かけるなんてもうないと思っていた。
少し億劫な気もしたけれど、私はなんとなく嬉しかった。
「じゃあ、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」