片翼の蝶
最期の願い






夏が過ぎて、秋が顔を見せたかと思うと、
またすぐに冬が来た。


今年の冬は極寒だと言われているのか、
身震いするほどの寒さに驚いた。


布団から出たくなくて毎朝苦労する。


でもあまりにも耳元で珀が騒ぐものだから、
すぐに飛び起きてしまう。


今日も珀にたたき起こされて目が覚めた。


ぶるぶると身を震わせる。


もこもこと厚着を―といっても制服だから
あまり厚着はできないけれど、
出来る限りの厚着をしてリビングへ行った。


リビングでは寒そうに身を縮こませたお父さんが
ココアを飲みながらニュースを見ているところだった。


お母さんは冬でも寒そうにすることはなく、
むしろ暑そうに手をパタパタさせながら
リビングを動き回っている。


私は食卓についてパンをかじった。


「ああ、茜。おはよう。ココアいる?」


「うん。おはよう」


「勉強の方はどう?進んでる?」


「大丈夫。そういえばまた成績上がったよ」


「そう!良かったわね、ねえ、あなた」


お母さんは目を輝かせてお父さんを呼んだ。


お父さんはテレビから目を離して、私を見た。


そしてにっこり笑うと、「そうだなぁ」と頷いた。


「週末、どこかに出かけようか。
 久しぶりにみんなで」


「いいわね。どこに行く?」


「温泉なんてどうだ?」


お母さんが喜んで手を叩く。


温泉なんて何年ぶりだろう。


小さい頃はよく行ったけど、
大きくなってからはあまり行かなくなった。


温泉は私も好きだから行くのはいいんだけど……。




本当に、家族で出かけるなんてもうないと思っていた。


少し億劫な気もしたけれど、私はなんとなく嬉しかった。



「じゃあ、行ってきます」


「はい、行ってらっしゃい」




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