片翼の蝶
「あ、あのう……そのう」
私は迷った。
大志には、幽霊が見えることは話していない。
話していいものなのか迷う。
もし信じてもらえなかったら恥ずかしい。
頭の変な子だと思われてしまう。
もじもじしていると、大志は
自分で淹れた珈琲に口をつけてから、
口を開いた。
「珀のこと、か?」
「えっ?」
「なんとなく。違ったら悪い」
「う、ううん。珀のこと、なんだけど」
見透かされているみたいでびっくりした。
大志は私を見つめて、それからふっと笑った。
「で?珀がどうかしたか?」
「あの、私……実は―」
私は、意を決して幽霊が見える旨を大志に話した。
ポツリ、ポツリと言葉を落とす。
最初大志は目を見開いて驚いた表情を見せたけれど、
すぐに冷静な真顔に戻って、
うん、うん、と話を最後まで聞いてくれた。
「それで、体を貸してほしい、と」
大志が簡潔に話をまとめる。
私は頷いて、また牛乳を飲み込んだ。
すごく甘い。
絶妙な甘さが何故か安心する。
大志はふぅっと一息ついて、また珈琲を飲んだ。
「貸してやったら?」
「ええっ!」
「だって、それがあいつの願いなんだろ?」
「でも」
「俺が貸してやってもいいけど、
それじゃダメなんだろ?」
「そう、だけど……」
珀は、「私」じゃなきゃダメだと言った。
それはどうしてなのか分からないけど、確かにそう言った。
きっと大志が体を貸してくれるってよって言ったとしても、
珀は首を縦に振らないだろうと思う。
何がしたいのかな。
女の子じゃなきゃ出来ないような何かをするのかな。
そんな人だっけ?ううん。珀はそんな人じゃない。
「珀は人を傷つけるようなやつじゃない。
だから、用事が終わればきっと返してくれるよ」
「そうかなぁ」
「なんなら俺がいてやろうか?
珀がちゃんと体を返すように見張っててやる。
それじゃダメか?」
「そ、それなら……」
大志はにやりと笑うと、パソコンの方に目を向けた。
「俺もあいつと話したいこともあるし。
せっかくなら、珀の願いを叶えてやりたいし。
協力してやろうぜ。安心しろ。俺が最後まで見届ける」
「う、うん」
私が頷くと、大志は小さく笑った。
そしてパソコンを起動させる。
すると画面が明るくなって、
文章が並んだ画面が映しだされた。