片翼の蝶
初めは短いお話を一つ。
授業で習ったことを題材に筆を進める。
夢中になって気付いたら手が真っ黒になっていた。
そうして出来上がった文章を読んで私は思った。
そう、これよ。これがいいんだ。
私はこれがやりたかったんだ。
それに気付いた時にはもう、
震えが止まらなかった。
あの時からだ。
私が小説を書くようになったのは。
それからというもの、
私が真剣に授業を聞いたことは一度もない。
芸術性を磨くための美術や音楽、
書道や運動能力を図る体育の授業は別として、
座学という座学はほとんど聞いていなかった。
ただ座って授業を受けるふり。
そうしてノートにかじりついて小説を書いてきた。
今までそれを勘繰られたり怒られたりしたことは一度もない。
ただ勉強熱心だねと言われることはあったけれど。
そのおかげか私の成績は振るわないまま。
気づけば私は底辺の底辺にいた。
でもそれでいい。
私は進学する気も、
かといって就職する気にもなれずにいたんだもの。
〈寒い。寒い〉
びくりと肩を震わせる。
動かしていた手をピタリと止めた。
実は私にはもう一つ、秘密がある。
聞いたらびっくりすると思うけれど。
〈助けて〉
私には、幽霊が見える。