片翼の蝶
珀の問いかけに、私は押し黙る。
飛べるのかって聞かれても分からない。
大体、飛ぶって何?
なかなか言い表しづらい関係を
言葉にして置き換えただけであって、
本来の意味を成すかは分からない。
でも答えるのなら、私は多分、
珀の片翼は持っていない。
だって私はまだ、珀のことを
何も知らないんだから。
梨花は珀の片翼を持っていたのかな。
珀と寄り添って、そうして
この世界を飛べていたのだろうか。
梨花はどうして、珀に認められたんだろう。
何が、珀を突き動かしたんだろう。
そう考えると、私に与えられているものはただ、
幽霊が見えるっていう特別な体質だけだ。
それ以外に私は、何の取り柄もない。
そう思うと悲しくなってきた。
私じゃ、梨花の代わりにはならない?
「あなたは、私の片翼を持っているの?」
質問に質問で返した。
珀は目を丸くして私を見つめる。
そしてふっと唇に弧を描くと、
珀は立ち上がった。
〈さあな。持っているかもしれないな〉
珀がにやりと笑った時、
大志が手にプリント用紙を抱えて戻って来た。
慌てて姿勢を正すと、
大志はプリント用紙を私に差し出した。
「持っていけ。出来たら
本にしようと思ってる。これは記念だ」
「あ、ありがとう」
「もう遅いだろう。送っていく」
「大丈夫。一人で帰れるから」
私は大志の優しさを気持ちだけ受け取って、
帰ることにした。
アパートの前まで大志が出て来て
送り出してくれる。
私はカバンにプリント用紙をしまうと
一歩前に出た。
「できたらまた、いつでも遊びに来いよ。
何かあれば力になる」
「ありがとう。小説、頑張ってね」
「おう」