片翼の蝶



ね?びっくりしたでしょう?


幽霊が見えるようになったのは多分、
小説を書き始めたせい。


物語の世界に没頭して、ある時、
幽霊の声が聞こえる主人公が
その声に導かれて冒険をするお話を書いた時から、


なんとなく人ではない何かの気配を感じていて、
書き終えた頃にはばっちりと
幽霊の姿が見えるようになっていた。


おかしな話でしょ?


でもね、あるんだよ。


だって今まさに見えているんだもの。




五歳くらいの男の子の幽霊だった。


男の子は赤い帽子を被っていて、
鼻の頭に絆創膏を貼っていた。


ぐずぐずと泣き出した男の子は、
私の斜め前の席の男の子の背中をつついて
しきりに助けを求めていた。


助けて、助けてって。


幽霊だから半透明かと思いきや、
人と違わぬ鮮明さで見えてしまうものだから、


時折人かどうか判別がつかない。


だけど学校にいる間は制服を着ていない人は
全員見分けがついてしまう。


この男の子はまさしく、幽霊だった。


男の子は斜め前の席の子を諦めて
泣きながらウロウロする。


私は目を合わせないようにチラリと
横目で観察していた。


ここで気づかれては厄介だ。


ここはやり過ごそう。





〈助けて、一緒に遊んで〉




< 5 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop