片翼の蝶
「こんな時間までどこに?」
「ちょっと、友達のところ」
「あんた、そんな友達いたの?」
お母さんが口を挟むように
そんな失礼なことをいい始めた。
何よそれ。
いちゃいけないっていうの?
私にだってそれくらい、出来るんだから。
そう心の中で思って悪態をつく。
お父さんはお母さんを振り返って目で制止すると、
また口を開いた。
「もう遅いだろう。せめて連絡しなさい」
「はい」
「それと茜、もう受験する大学は
決まったのか?」
お父さんは私に、大学に入れと言っている。
私は大学に入るつもりはなかったけれど、
なかなかお父さんには伝わらない。
夢も何もない娘をどうか助けてほしい。
そんなに追い詰めるように受験、受験って
言わないでほしい。
私はそのうち、干からびてしまう。
干からびて動かなくなって、
風化して無くなってしまう。
なんて、娘の悲鳴にも気づかないほど、
うちの親は馬鹿だ。
はっきり言って、親としての才能がない。
そう思ってしまう私はとても暗くて、
心の中は真っ黒だ。
そんな私に、人の心を震わせる物語が
作れるのかな?
そんなことを思っていると、
説教が終わったらしい。
お父さんが立ち上がって部屋へと消えていった。
「茜、早くご飯食べちゃって」
お母さんを緩く睨みつけて、
私は食卓についた。
ラップをかけてあったおかずをつついて、
手早くご飯を食べる。
味はしない。ただ飲み込むだけ。
お母さんの料理を美味しいと思ったことは一度もない。
無機質なその料理は、生きるために
体に取り入れるためだけのもの。
外食をする時なんかは美味しいと感じるのに、
お母さんの料理はダメ。
なんでだろう。
私の反発心でそう思い込んでいるだけなのかもしれない。